矯正に手術はあり?なし?

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手術をするときの条件

 歯の矯正治療は、歯に矯正器具を装着して歯を徐々に移動させることで理想的な歯並びに整えます。歯は顎の骨の上に生えていますから、移動させるためには顎の骨に余分なスペースがなければなりません。もし、スペースがなければ抜歯を選択することになりますが、一般的な非抜歯の矯正や抜歯の矯正でも治すことができない不正咬合もあり、そのときは、外科的矯正を実施することもあります。つまり、手術を行なうわけです。

 手術を行なうのは上顎か下顎、もしくはその両方となります。

 例えば、顎が前突している場合は、その長さを削らなければなりません。内側に引っ込んでいる場合は、逆に前へ出す必要があります。

 骨格に問題がある場合の不正咬合に外科的アプローチは極めて有効で、歯列矯正だけの治療よりも、早く、より理想的な相貌と歯並びを実現することができます。ただし、あらゆる手術にリスクが伴うことは否定できません。あくまで手術をしなければ治らないタイプの不正咬合であること、そして、患者さまの希望であることが手術を行なうときの絶対の条件です。

とはいえ、外科手術が必要な難しい症状の場合、矯正歯科へ足を運んでも、「治療不可」と断られることもあります。外科矯正の手術は大学病院など限られた場所でしか受けられないので、重い不正咬合で悩んでいる患者さんは、そうした医療機関との連携ができているクリニックを選ばれることをお勧めします。

 また、骨格の「外科手術」は基本的に成長の止まった「成人」向けの治療方法です。10代のうちであれば、骨の成長がまだ続いており、その成長を促すことで外科手術をすることなく矯正治療が可能なこともあります。成長中であるのにも関わらず、外科矯正をしてしまえば、成長の作用によって将来的に歪みや不正咬合の再発がでてきてもおかしくはありません。男性は20代を過ぎても成長が続く場合もありますので、そうした患者さんの場合は、手術を決定する前に、骨の検査をして成長が止まっているのかどうかを調べます。

手術のリスク

 では、どのようなリスクがあるのかを述べておきましょう。

 顎の手術は全身麻酔で行なわれており、日本におけるすべての全身麻酔手術で死亡事故が起こる確率は0.06パーセントといわれています。1万人に6人の割合を多いとみるか、少ないと考えるかによって判断はわかれますが、いずれにしても、死亡事故が起こるリスクがあることは事実です。

 手術中には予期せぬことが起こります。予想以上の出血によって輸血をしたり、骨や軟骨の性状によってチタンプレートを使ったりする必要に迫られることもあるでしょう。場合によっては手術を中止することも想定しておかなければなりません。

 また、舌顎前突の場合、顎を後方へ移動させる手術を行ないますから、舌が収まる部分が狭くなり、気道を塞ぎやすくなるので、睡眠時無呼吸症のある方は症状が悪化する可能性などを指摘している医師もいます。

 そして、顎の手術は、顔面骨の中央部と下方部に影響を及ぼします。つまり、顔の印象が変わってしまうのです。手術後も、噛み癖をはじめとして、筋肉や皮膚の動きによって骨がどのように変化するかは予測ができません。これも顔の印象を変える要因となります。

 重い不正咬合の患者さんは、歯並びだけでなく容貌にも悩みを抱いている方が多くいらっしゃいます。そうした方にとっては顔の印象の変化は喜ばしいものかもしれませんが、予想外の変化が起こる可能性も少し考慮にいれておく必要があるでしょう。ただし、近年のデジタル技術によって、矯正後の容貌までもシミュレーションができるようになりつつあります。

 リスクも忘れてはいけない外科矯正ですが、難しい症状に対しては有効な治療方法でもあります。まずは信頼できるドクターを探し、そのドクターとの話し合いを大切にすることが重要です。