部分矯正とは
一般的に行なわれている歯の矯正治療は、歯の全体を対象として治療します。しかも、上の歯も下の歯も同時に行なうわけです。ブラケットもひとつひとつの歯に装着していき、全ての歯に装着します。これは表側矯正も裏側矯正も方法は変わりません。マウスピースの場合も、歯列全体を動かしていけるよう、ステージごとにひとつひとつの歯の位置に変化をつけます。
これに対して前歯の一部分だけを矯正するのが部分矯正です。
部分矯正の場合、主に上下または上か下の前歯6歯を対象にしています。笑った際に他人の目に触れる部分をきれいに整え、「見た目」を改善することを大きな目的としていますが、歯の重なりなどを改善することで虫歯などの予防や口を閉じやすくなるといった利点もあります。
部分矯正では、矯正装置を設置する箇所がわずかで歯を動かす距離も短いため、治療費は全体矯正と比べて少なく、治療期間も短くなります。
部分矯正が適用できる場合
気軽に治療を受けられ、目に付く部分を治せるため人気がある「部分矯正」ですが、全ての症例で部分矯正ができるわけではありません。
例えば、前歯部分が少しだけ内側へねじれている場合や、軽度の八重歯やガタガタ(叢生・乱杭歯)、前歯部分のすきっ歯など、部分矯正ができる例は限られています。
矯正治療で歯を整列させる場合には、歯を並べるためのスペースを作ることが重要になりますが、部分矯正ではそのスペースを十分に作ることができません。そのため、軽度の乱れにしか対応できないのです。
また、例えば、上の歯だけを部分矯正したとしても、上下の歯の噛み合わせが大切ですから、上の歯だけがきれいに揃っても必ずしも上下の歯がうまく合うとは限りません。また、かみ合わせの矯正のためには奥歯も含めた歯列全体を動かして調整する必要があるため、「部分矯正」では、かみ合わせの改善も行うことはできません。
このように、部分矯正ではごく限られた症状への対応となっています。ただし、前歯1本だけの歪みやねじれで悩んでいる方も実は多くいらっしゃいます。
たったの1本でも、きれいに整列した際の喜びは大きく、また矯正後の印象はかなり変化することは事実です。
かみ合わせに問題はないけれど、前歯の見た目が気になるという方にはまさにぴったりな矯正治療方法だと言えるでしょう。
治療期間は?治療費は?
「部分矯正は短い治療期間と安い料金で矯正ができる」という宣伝文句を掲げている歯科医院をよく見かけるようになりました。確かに、歯の矯正治療は、1~2年の治療期間を要しますし、治療費も数十万円から100万円くらいはかかります。できるだけ短く、できるだけ安く済ませたいと考えるのは当然のことかもしれません。
部分矯正の場合もその症状によって治療期間に差がありますが、短くて半年程度から矯正治療が可能です。また費用に関しては、全体矯正の半額程度でできるクリニックが多いようです。
けれども、部分矯正を行なうには患者さまの歯の状態によって、治療が可能な場合とそうでない場合に分かれます。それを、「短さ」や「安さ」のために、無理をして部分矯正を行なったとしても、結果的には治療に失敗したり、矯正はできたとしても、しっかりと噛み合わず、生活に支障が出てしまったりするかもしれません。
患者さまが部分矯正を希望したとしても、正しい情報を説明し安易に引き受けない、患者さまのための治療法を選択してくれる歯科医院選ぶべきでしょう。