デジタル機器の導入が遅れる日本
「必要は発明の母」という言葉がありますが、歯科においては需要があるところに技術の進歩が生まれます。矯正歯科でも同じことがいえるのですが、この分野の先進国は欧米です。欧米の人たちは合理的な考え方をしますから、良いものは積極的に取り入れようとします。そのひとつがデジタル機器の導入です。
残念ながら、日本の歯科医院でデジタル機器を揃えているところはまだ数えるほどです。矯正治療が欧米に比べるとまだまだレベルが低く、遅れている理由のひとつはそのためと考えてもいいでしょう。
デジタル機器の役割
では、デジタル機器はどのような働きをしているのでしょうか。
代表的なものに歯科用CTと3Dスキャナーがあります。これまで患者様の歯の状態を診るときは歯科医の目視やレントゲンに頼ってきました。ところが、歯科用CTならば、それらでは見えない部分も3次元データとして撮影、保存することができます。歯科用CTは立体的に患者さまの歯並び、歯の状態を確認できるので、従来は確認が難しくドクターの経験や勘に頼っていた部分をより正確に把握することができ、無理が無く、より効率的な歯の動かし方を計画できるようにもなりました。
以前なら、歯形模型を使って治療計画を練っていましたが、デジタルデータを用いることで、歯科医と歯科技工士はよりスピーディに情報を共有することができます。
また、デジタル技術は院内だけでなく、歯科技工の分野にも導入されています。
矯正装置を作る際には患者さまの歯の型取りを行い、歯型模型を作る必要があります。従来はシリコンを用いて歯型を取っていましたが、この作業は患者さまに多少辛い思いを強いるものでした。また歯型取得の最中に多少のズレが生じることもあり、精度を求めることが難しい取得方法でもありました。
そこで登場したのが、光学3Dカメラです。こちらは、細長いカメラを患者さまのお口に当て、口腔内を撮影していくと、コンピュータ上にお客様の口腔内が立体的に再現されます。この方法であれば、患者さまにシリコンが固まるまで我慢を強いるようなことはありませんし、より正確なデータを取得することができます。こうして取得したデータをもとに矯正装置の製作を行います。
歯科技工所と聞くと、工具が並びちょっとした工房のようなイメージを持つかもしれませんが、デジタル設備を整えた技工所は一般的なオフィスとほとんど差がありません。
3Dスキャナや3Dプリンタは近年より身近になってきましたが、歯科技工所でもそれらの機器を導入し、口腔内のデジタルデータをそのまま出力したり、歯型模型をデジタルデータとして読み込んだり、と要所要所にデジタル技術が採用されているので、技工士も今やコンピュータの前にいる時間が長くなっています。
正確な治療が患者様の最大のメリット
これらのデジタル機器は作業の手間を省くことで、治療期間の短縮に貢献しています。ただし、すべてが短縮されるわけではありません。矯正装置のひとつであるマウスピースを製作する際、採取した歯型に石膏を流し入れて模型を作ります。その模型をもとにマウスピースを作るわけですが、石膏にしても、マウスピースの材質であるレジンやポリウレタンなどの樹脂にしても、形状が安定するまで一定の時間が必要です。これは従来のアナログもデジタルも変わりません。
デジタル機器を使っているからといって、なんでも時間短縮ができるわけではないのです。この点はどうか誤解のないようにしてください。
あくまで治療の正確さを追及するためにデジタル機器を導入しているので、安易に治療期間の短縮化を目指しているのではありません。事実、治療結果は見違えるほどになっています。
ただし、このデジタル技術を導入しているクリニックはまだ少ないことは事実です。また、技工所のデジタル化となるとよりハードルが上がり、国内でもまだわずかしかありません。
日本の矯正治療技術の向上のためにも、今後デジタル技術導入が進められることを願っていますが、患者さんも矯正歯科を選ぶ判断基準のひとつとして、「デジタル技術」を考えてみてはいかがでしょうか?