デジタル機器か職人技か

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『下町ロケット』を支える職人技

 『下町ロケット』というドラマが大ヒットしました。純日本製のロケットの製造を任された日本を代表する大企業と、熱血社長が率いる下町の中小企業との“戦い”が描かれており、大企業でも作れない部品を、職人技を持つ中小企業が開発、製造するということが最大の見せ場となっていました。

 このようにロケットや新幹線の重要部品を日本の町工場の技術が担っている例は珍しくありません。“刺しても痛くない注射針”は世界を驚かせました。
これらは日本の“もの作り精神”と“職人技”が支えているのです。

デジタル化が遅れる日本の矯正歯科

 「あの先生は上手い」「歯科医は技術だ」などとよく言われます。確かに、歯科医に技術は不可欠です。「上手い」から、「技術が高い」からはやっている歯科医院は少なくありません。
歯科大学や大学の歯学部でもこの考え方は強く、これまで技術を重視する教育を行なってきました。職人技をリスペクトする日本の風潮はこの分野にも反映されているのです。

よって、最新鋭のデジタル機器に依存する治療を軽んじる傾向にあります。矯正歯科についても同じことがいえるでしょう。アメリカではデジタル機器の導入が進んでいますが、日本でこれらの機器を用いている歯科医院はほとんどありません。

職人技を凌駕するデジタル機器

技術や経験を重視する日本の歯科ですが、矯正歯科は少し事情が異なります。

例えば、矯正治療を終えた後、当初の計画通りの治療ができたかを再検証するのはあくまで歯科医の“目”です。しかし、治療前後にCTを使って、縦、横、斜めを正確に計測していれば、ディティーリングといわれるミリ単位での微調整が可能になります。
これは歯科医だけでなく、歯科技工士にもいえるでしょう。例えば、マウスピースを作るとき、これまではシリコンで歯型をとって、ひとつ一つ手作りをしていました。しかし現在は3Dスキャナーがあります。作業はPCで行ない、最後は3Dプリンターで製作しています。
精密機械を超える技術をもつ職人がいますが、このような人はごくわずかに過ぎません。しかも、日々、多くの装置を作らなければならず、ときにはミスが出るかもしれません。
これらデジタル機器を使えば、同じ品質の製品を大量に作ることができますし、ヒューマンエラーも避けられます。

技術や経験は重要ですが、歯の矯正治療をするうえで、ある意味、デジタル機器の導入は必要最低条件といえるでしょう。